〜戦国武将エピソード集〜

上杉謙信が単騎にて佐野城に入る

 天正二年(一五七四年)、北条氏政が三万の兵をもって佐野政綱(まさつな)を囲んだと聞き、上杉謙信は八千ばかりの兵を率いて、後詰(=敵を後方からせめること)めした。

「佐野城が落ちそうだ」と聞いた謙信は、「後ろ巻き(=味方を攻め囲む敵軍を、さらにその背後から囲むこと)には、私に劣らぬ侍や大将がたくさんいるので安心だ。佐野城の方こそ心配だ。まず私が城に駆け込んで力を添えてやろう」と、鎧兜も着けず、黒い木綿の胴服(=上層武士が羽織として用いた、腰までの短い服)を着て十文字の槍を横たえ、わずか十三騎を引き連れて、北条氏政の陣の前を馬を静かに歩ませ、佐野城に入った。

 北条氏政の兵たちはそれを見て「夜叉羅刹とはこのことだ」と恐れて近づく者はいなかった。

 北条氏政は囲みを解いて引き退くので、上杉謙信はすぐに城門を開かせたが、北条氏政は一戦もせずに引き退いた。

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常山紀談、085