下野国(しもつけのくに=現在の栃木県あたり)の宇都宮の軍が那須に押し寄せて来た。だが那須は、これを撃ち破り、もう少しで大将まで討ち取ることができそうであった。
しかし那須家の重臣、大関夕安は、味方の兵をまとめてしまい、敵兵が逃げるのを追撃しなかった。
人が皆、「今回は宇都宮をも攻め滅せたのに」というのを聞いて夕安は言った。
「新古今和歌集 藤原良経(ふじわらよしつね)の和歌に、
『雲はみな はらひはてたる 秋風を 松にのこして 月をみるかな』
(雲を全部吹き払った秋風は、わずかに、松の梢を揺らす音として残っている。その松風を聞きながら、雲ひとつなく澄んだ月を眺めよう)という歌がある。
邪魔な雲も風もうまく利用すれば月を愛でるのに役に立つ。今、味方にさしたる根本の要もなくて、宇都宮を滅ぼせば、小田原北条氏は那須を敵にするだろう。そうなればどうやって那須を守り固めるのだ。宇都宮を存続させて北条の相手をさせ、その間にわが国の内政に力を入れ、富国強兵策を押しすすめ、北条氏でさえ敵にするのだ」
人は皆、これには感心した。