常山紀談 28.信長上京の事
信長が上京したこと
信長は桶狭間で今川義元を討ち取った後、密かに配下の者を七、八人ほど連れて、京に上（のぼり）、都（みやこ）の様子を見物して回った。
その後、高屋（たかや）城に行って、三好長慶（ちょうけい）と会見した。
信長は「尾張の領地を献上致しましょう。そして、その土地に相当するだけの領地を畿内で頂ければ、私は三好家の先陣となりましょう」と申し出た。
信長の申し出を三好長慶は聞き入れようとしたのだが、松永弾正（だんじょう）久秀（ひさひで）が諫めたので、実現しなかった。
また信長はこの時、斎藤義龍（よしたつ）が信長を殺そうと、刺客十二人を堺の港に送り出したことを聞いた。そして堺に向かい、義龍の刺客が滞在している旅宿に行った。
「義龍の刺客とはお前たちのことか。憎たらしい奴らだ。ひとり一人、その首を刎（は）ねてやる」と、信長は刀の柄に手をかけて、きっ、とにらめつけた。その剣幕に押されて刺客たちは平伏したので、信長はさんざん罵ってから帰ったという。
